ちょっと
こちらのブログを再構築しておりまして、ここから過去の作品写真をサルベージしたのでせっかくだから記事化します。
これは何かといいますと、リドリー・スコット監督の2005年公開の映画「キングダム・オブ・ヘブン」に登場するエルサレム王の仮面の製作過程です。
この「キングダム・オブ・ヘブン」という映画はとても素晴らしい作品で語り出すと止まらなくなるのですが、残念ながら日本ではヒットするどころか人々の話題にすら上がりませんでした。オーランド・ブルームというそこそこ人気の俳優が主役だったのに。おそらく「十字軍」という日本人にはあまり馴染みのない題材を扱っていたからでしょう。この映画は第2回十字軍と第3回十字軍の間の、絶妙な均衡により一時的な和平状態にあったエルサレム王国を舞台にしたお話なのですが、これがもう内容からキャスティングから衣装から造型から何から何まで完璧。また「イスラム勢力vsキリスト教国家」という内容にもかかわらず2005年という当時ブッシュ政権だったアメリカのハリウッド映画として、しかもFOXという右派企業から配給されたというのもすごい。プロデューサーは一体どんな魔法を使ったんでしょうか。
ちなみに私はこの映画を見て、山本五十六が提唱した「短期決戦早期講和」とはこういうことだったのか!と本当に理解できたような気がしました。本で読んで頭で知る以上に映像で見せられて心から納得したというか。
で、この「短期決戦早期講和」を体現する人物としてエルサレム王国国王のボードワン4世という人物が出てきます。
こういう人
なぜ仮面をかぶっているかというと、ハンセン病に感染し顔が病変しているから。もっとも仮面自体はこの映画の創作で史実に基づいているわけではないそうですが。しかしシンプルながらカッコいい。汚し塗装が効いていて形は変わらないのに照明の当たり具合で様々な表情が出てきます。上記の写真は日光の下でのシーンですが、室内でのろうそくの灯りを使用したシーンは本当に良い雰囲気です。
ということで作ってみた。
DVDからキャプチャした画像を手本にライフマスク(石膏で型取った人の顔)の上に油粘土を盛って彫刻していきます。ちなみに使用した油粘土はダイソーに売っているやつなのでこの時点での製作コストは105円のみ。
しかし柔らかい粘土でツルンとした硬いものの原型を作るのは大変ですね。実際作ってみてよく分かったのですが、これは写実とデフォルメが絶妙にブレンドされたデザインの仮面なんですね。まず「解剖学的に正しい」仮面だということ。顔の下に骨と筋肉と脂肪があることが前提でデザインされていて、頬から顎のかけてのラインのとり方が微妙で超大変。あとよく見てみるとアイホールがやたらとデカくデフォルメされているものの(視野確保のため)、瞼と目頭がしっかり彫刻されている。そして眉骨と瞼の間のラインのとり方が微妙でこれまた大変。同じフルフェイスの仮面でも普通の顔の上にかぶるようなヴェネツィアンマスクに見られる綺麗なラインの仮面とは違う。言うなれば第二の顔。ここが「あ~…顔が崩れた人が着けるマスクなんだな……」という感じです。感覚的には義手や義足などの欠損部修復みたいなもんでしょうか。さらにこの「解剖学的正しさ」に加えて、部分的に加えられたエトルリア風のデフォルメが効いている。デコから鼻にかけての所謂”Tゾーン”と唇がやけにカッチリしているのがそれなんですが、特徴的なのが「眉間が凹んでない」というところ。普通だったらデコから鼻筋に至るラインの途中で眉間のところが一段凹む。しかしこの仮面にはそれが無く、なんだか石膏デッサンで使う石膏像の顔を思い出してしまいました。
で、彫刻が終わったら次は型取りです。
原型の周りに”土手”を作り、クリアーのラッカースプレーをこってり吹きます。
そしてシリコンを流します。この時は急いでいたのでシリコンの硬化剤を通常の6倍混ぜました。
そしてシリコンが固まったら上から石膏をかけ…
石膏が固まったら型を外します。まあまあいい感じの型ができました。
その後の作業についてはまた別記事で。
本当に良い作品なので是非ご覧下さい。その際はディレクターズ・カット版がオススメです。
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